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Fleurage―たおやかな花たち―

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Category:立夏の記憶

立夏の記憶 5 

立夏の記憶 5




東野官房長は大学の図書館で知り合った。
と言うと高校生の恋ばなのようだが事実は事実だ。

小学部から付属の大学で顔見知りの多かった中、
東野さんは異質な存在だった。
とにかく頭が切れる。
成績がトップから落ちた記憶がないと言う。
ふざけた話しだ。
私は成績があまりに酷くて死にたくなった記憶しかない。
それを‥トップ以外の記憶がないと聞いた時には
正直、腹が立った。
ムカついたと言うか‥嫌味なやつだとしか思えなかった。

私は特に親友と呼べるものはいなかったし、
だいたいひとりでいるのが好きな人間で、
時間があれば大学の図書館か、国会図書館に入り浸って
余計な知識を詰め込むことばかりしていたんだ。
お陰で頭の中は他人の考えばかりがぎっしりと詰まった面白みのない
人間になり下がっていた。

「きみは何をやりたくて生きているんだ」
図書館のいつもの席は、窓際の最後尾だった。
本を読むのに飽きたりはしないが目が疲労すると、窓から見える
緑の木々を見つめていた。
春は八重桜の脳が飽和しそうなピンクが広がり、
夏は奥の欅に集まる蝉の騒音に閉口し、
秋は裸になった木々のせいで直射日光が当たって結構暑く、
冬は隙間風に悩まされはしたが、いつもその席で本を呼んでいた。
その時もそうだ。
片肘をついてじっとページを見つめていた私の前に影ができて
顔を上げた私に向かっていきなりそんな事を言う。
不躾な質問をする彼に私はノーリアクションで「別に何も‥」そう答えたが。
なおも、
私の前の席に座り体を反転させたまま、
「毎日かどうか知らないが、いつもその席に座っているけど
なんで席を変えない?」 意味のわからない質問を続けた。
「めんどくさいでしょう。
どこに座るか考えるのがめんどくさい」
「違う席に座れば違う風景が望める。
そうすればひとつだけでなく幾通りもの考え方が身につく。
バカの一つ覚えを地で行く人間もいたんだな」
‥失礼なことをいうが、それもそうだと私は思ったわけだ。

元々彼のことは知っていた。
入学した時から2個上の彼は有名人だった。
整った顔だちでモテた彼は女が切れたことがない、ってくらいいつも女の影が
あった。
だから彼はマメなのだと他の連中は言ってたが、私にはそうは見えなかった。
どこか中身の無い、空虚な関係の相手ばかりだった。
少なくとも私にはそう思えた。
愛情があるとは決して見えなかったのだが‥。
大学院に進む間際に学生結婚した時は仰天したというか、
呆れた‥という感覚を持ったのをハッキリと覚えている。

図書館で意見された後、彼とは懇意にしていたのに
私には一言もなく結婚したのはいささか‥ショックで、口もききたくない状況に
陥ったのだ。

とにかく‥変わっていると、再認識した。
『あなたにそんなことを言われるのは心外だ』
そう言うだろうが。

結婚した後‥子供ができる訳でもなく、
ふたりだけで暮らしていたらしいが、今は実家に住んでいる奥さんとは離れて
単身赴任の暮らしを強いられている。
しかし‥実家は都心に近い場所であるのに単身赴任とはおかしなものだと
思っていた。

彼と私の立場が逆転したのは私が警察庁長官に就任してからだが
言葉使いも上司に対するそれになり‥東野さんに?長官、書類にサインをお願いいたします?
などと言われると‥背中がゾクゾクしたものだ。

10年前のことを思い出した時に彼のことも考えるようになったのは理由がきっとある筈だ。
きっと私の脳内に留まったままの、
過去のシノプスから弾かれた神経回路の残骸が教えているのだろう、
‥彼は何か知っている―と。

彼があの事件と何らかの関係があるのかも知れないと思うようになって間もなくの頃、
それは‥メイストームのようにすべてを舞い上げて一気に‥叩き落とそうとしていた。
 
「‥なんだって?!それは事実なのか?」
蜜月ならぬ毒月関係の飯沼次長が無表情で告げたことが発端だった。
「間違いありません。
ただ‥自殺か他殺かは県警が捜査中ですが」
「‥‥遺体は?」
「はっ?」
「遺体の鑑定処分許可状を地裁に請求しなさい、今すぐに!」

そうだ、これはサインだ。
これをスルーしたら永遠に闇に光は当たらない―

脳が急げと告げる‥
それを掴め、証拠を葬り去られる前に‥と。



続く


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